自治体では、行政の基幹業務システムを2025年度末までに標準化しガバメントクラウドへ移行するという国の方針により、ガバメントテクノロジー(GovTech/ガブテック)の必要性が急拡大しています。自治体は紙・対面中心の業務から脱却する必要に迫られ、オンライン申請、電子契約などの需要急増や人手不足、レガシーシステムの限界、住民サービス向上への期待、生成AIの普及も重なって、行政のデジタル化を支えるガブテックの導入は喫緊の課題となっています。
●ガバメントテクノロジーとは
ガバメントテクノロジーは、国の行政機関(官庁)や地方公共団体(公庁)といった「ガバメント=官公庁」全体が、デジタル技術を活用して行政サービスと運営を高度化する取り組みを指します。行政がオンライン申請、AI・データ分析、クラウド基盤などを導入し、住民サービスの利便性向上、業務効率化、透明性向上を実現する点が特徴です。ガブテックは行政内部の改革だけではなく、民間企業との協働によるオープンイノベーションも含み、行政DXを技術面から支える基盤として位置づけられています。
●ガブテックの市場規模
ビジネスリサーチインサイト社によると、世界のガブテック市場は、行政サービスのデジタル化需要を背景に、2026年に8,254億9,000万ドル、2035年には3兆909億3,000万ドルへ成長する見通しで、年率15.8%の高成長が続くとされています。また、株式会社グローバルインフォメーションのレポートでも、2030年に1兆5,256億ドル規模とされ、世界的に兆ドル級産業へ拡大しています。
市場を牽引するのは、オンライン申請、電子署名・eKYC、AIチャットボット、政策データ分析、クラウド基盤、スマートシティ向けIoT、サイバーセキュリティなど多岐にわたる技術群です。特にITサービス(56%)とソフトウェア(31%)が中心で、行政の基幹システム刷新、住民サービスのオンライン化、都市インフラのデジタル化が主要テーマになっています。
アジア太平洋地域は世界市場の約39%を占め、日本の行政DX(標準化、ガバメントクラウド、自治体DX)も成長を後押ししています。矢野経済研究所の調査では、自治体向け情報システム市場は2024年度に8,208億円、2025年度は9,660億円(前年比 +17.7%) とされています。

●国内のガブテック市場を支える主な企業と課題
日本のガブテック市場は、自治体向け基幹系システムの標準化とガバメントクラウド移行が中心テーマで、主なソリューション提供企業は大きく3層に分かれています。
➀国内大手SIer
基幹系システムの全国一斉移行の中心を担っているのが、NEC、富士通、日立、NTTデータです。矢野経済研究所の調査でも、標準準拠システムの提供・移行対応で売上が大幅増となっています。一方で、業務の集中により人的リソース逼迫が顕著にもなっています。
② SaaS・クラウド系
自治体DXの「住民サービス」「内部業務」の両面で存在感が拡大しているのが、マネーフォワード、freee、SmartHR、カオナビ、Sansan、LINE、ヤフーなどです。オンライン申請、電子契約、文書管理、窓口DXなどで急伸しています。
③ 海外ガブテック・グローバルIT
ガバメントクラウド基盤、AI活用、データ連携基盤で不可欠な役割を担っているのが、Microsoft、AWS、Google、Salesforce、Accenture、Deloitteなどです。グローバルインフォメーション社のレポートでは、Microsoft・Accenture・IBM・Oracleが世界の主要ガブテック企業として明記されています。
デジタル庁により選定されたガバメントクラウドサービス一覧

ガブテック市場の主要課題として、まず挙げられるのがベンダーの人的リソース不足です。
矢野経済研究所の調査では、標準化対応についてデジタル庁が定めた期限の2025年度に集中し、複数自治体の同時移行が必要な事態となりました。既存ベンダーの撤退やリソース逼迫により、移行遅延が大量発生しています。また、レガシー統合が難しく、日本でも個別開発システムの移行が最大のボトルネックになっています。ガバメントクラウド移行に伴うセキュリティ要件も高く、自治体のセキュリティ・コンプライアンス負荷が大きいことも課題となっています。官公庁の調達制度も障壁となっており、ガブテック導入にはPoC・アジャイルが必要ですが、「失敗できない文化」が新規参入を阻んでいます。
●ガブテック市場の今後の展望
2025年度は、自治体の基幹業務システムを標準準拠システムへ移行する作業が期限を迎え、ガブテック市場は急拡大しました。2026年度以降は、特定移行支援システムに該当する自治体や、既存ベンダー撤退により再構築が必要な自治体の移行が続きます。移行実績・サポート体制がベンダー選定の決定要因となるでしょう。標準化が一巡した後は、自治体DXが本格化し、オンライン申請、電子契約、窓口DX、文書管理、AI活用などの住民サービス領域が急成長するでしょう。今後、モビリティ・金融・ヘルスケアなど異業種からの参入が進むことで、既存SIerとSaaS企業の役割分担が再編される可能性があります。生成AIを活用した業務効率化や政策立案支援も普及していけば、ガブテックは行政運営の基盤産業として定着していきそうです。


